人口減少と老朽化を背景に、国は下水道区域の縮小・見直しを制度面から後押し。八潮市では2026年度も整備が続く一方、下水道を予定しない地域では合併浄化槽が使われています。

これまで「下水道整備」といえば、まだ通っていない地域へ下水管を延ばし、利用できるエリアを広げていく――そんなイメージが一般的でした。
ところが、その考え方が大きく変わろうとしています。
結論からいうと、今回の動きは「下水道をやめて、全国一律で浄化槽に切り替える」という話ではありません。 人口の減少や施設の老朽化を踏まえ、それぞれの地域で下水道を維持するのか、浄化槽などの個別処理へ切り替えるのかを比較し、持続可能な方法を選べるようにするものです。
2026年9月20日に配信された時事通信の調査報道では、全国の105市町村が「浄化槽転換」に前向きと報じられました。一方で、人員不足などを理由に検討が難しい自治体もあるとされています。
なぜ今、「下水道から浄化槽」という話が出てきたのか
背景にあるのは、人口減少と下水道施設の老朽化です。
下水道は、一度造れば終わりではありません。地中に張り巡らされた管路や処理施設は、点検、修繕、更新を繰り返しながら使い続ける必要があります。ところが人口が減れば使用料収入も減り、自治体の技術職員も少なくなっていきます。
国土交通省も、施設の老朽化によって改築・維持修繕費が増える一方、人口減少によって使用料収入や職員数が減少していると説明しています。そのため、将来にわたって汚水処理を維持するには、下水道と浄化槽などを比較しながら、下水道区域そのものを廃止・縮小することも検討課題になるとしています。
実は、こうした方向性が突然出てきたわけでもありません。
国は2014年に策定したマニュアルの段階から、人口減少などを踏まえて「将来的にも真に下水道施設が必要な地域」を選び、下水道区域を徹底的に見直すよう都道府県に求めてきました。2026年の法改正では、さらに一歩踏み込み、すでに整備された区域を含めて見直しを進められる制度づくりが進められています。
そして制度改正の背景には「八潮市」の道路陥没事故も
八潮市にとって、この話は決して遠い地域の出来事ではありません。
国土交通省は2026年3月27日、「下水道法等の一部を改正する法律案」を閣議決定した際、その背景として、2025年1月に八潮市で発生した大規模道路陥没事故を明記しました。
国は、老朽化した下水道管の破損に起因する事故を踏まえ、施設の安全性評価や維持管理状況の公表、計画的な改築、自治体間の連携などを強化。その中の一つとして「人口減少を踏まえた下水道区域の見直しに必要な規定の整備」が盛り込まれています。
改正法は2026年7月23日に公布されました。なお、改正内容は規定ごとに施行時期が異なっているため、区域縮小や浄化槽転換については、今後示される具体的な運用も確認していく必要があります。
つまり八潮市で起きた事故は、「古くなった下水道をどう安全に維持するか」だけでなく、人口や将来の維持費まで考えながら、そもそも下水道をどこまで持ち続けるのかという全国的な議論にもつながっています。
全国では下水道82.2%、浄化槽9.5%
ここで、現在の日本の汚水処理事情を数字で見てみます。
国土交通省が2026年8月24日に公表した2025年度末の集計では、全国の汚水処理人口普及率は94.0%。このうち下水道を利用する人口は1億141万人で、総人口に対する普及率は82.2%です。
一方、浄化槽による処理人口は1,171万人で9.5%。農業集落排水施設などが2.2%、コミュニティ・プラントが0.1%となっています。
それでも全国では、まだ約740万人が汚水処理施設を利用できない状況です。国も今後の方針として、地域の実情に合わせて「集合処理」と「個別処理」を最適化するとしています。
下水管を長い距離にわたって延ばす地域もあれば、各住宅に浄化槽を設置した方が現実的な地域もある。全国を一つの方式で整備するのではなく、その土地に合った仕組みを選ぶ考え方が、より明確になってきたわけです。
では八潮市は? 2026年度も下水道整備を拡大中
では、八潮市でも既存の下水道を浄化槽へ切り替えるのでしょうか。
2026年9月20日現在、八潮市が既存の公共下水道区域を縮小し、浄化槽へ転換する具体的な方針を公表した事実は、今回確認した市の公開資料からは確認できません。
むしろ八潮市では現在も、公共下水道の整備が進められています。
市によると、2026年4月現在の人口9万3,515人に対し、下水道を使用できる人口は7万8,297人。普及率は83.7%です。実際に下水道へ接続している人口は7万540人で、処理区域内の水洗化率は90.1%。市が管理する下水管は275.7キロメートルに達しています。
2026年度からは、二丁目、木曽根、南川崎、伊勢野、大瀬、垳、大曽根、浮塚のそれぞれ一部で、新たに公共下水道が利用できるようになりました。供用開始区域では、浄化槽を使用している場合、原則として1年以内に公共下水道へ接続することが定められています。
ですから、今回の全国的な「浄化槽転換」の報道を、そのまま「八潮市でも下水道整備をやめる」と受け取るのは正確ではありません。
一方、八潮市にも「下水道を造らない地域」はある
興味深いのは、八潮市でもすでに下水道と浄化槽を地域によって使い分けている点です。
市が2026年5月21日に更新した案内では、市街化調整区域と西袋上馬場土地区画整理事業地内について「下水道の工事予定はありません」と明記されています。そして、下水道に接続できない場所では「個別に合併浄化槽を設置してください」と案内しています。
つまり八潮市でも、すべての地域へ同じように下水管を延ばしているわけではありません。
公共下水道を整備する地域では引き続き管路を延ばし、下水道を予定していない場所では合併浄化槽を利用する。現在の市の公開情報を見る限り、そうした使い分けが行われています。
「造る」から「どう残すか」へ――下水道政策の転換点
生活していると、道路の下にある下水管を意識することはほとんどありません。それでも、毎日のトイレや台所、お風呂の水を処理するため、地下では巨大なインフラが24時間動き続けています。
これまでの下水道行政は、どちらかといえば「未整備地域へどう広げるか」が大きな課題でした。
これからはそこに、「人口が減った地域で、何十年先までどう維持するのか」「老朽化した施設を更新するのか、それとも別の処理方法へ切り替えるのか」という視点が、より強く加わることになります。
105市町村が浄化槽への転換に前向き――。この数字は、その変化を象徴するものといえます。ただし、今回確認できた時事通信の公開情報では、調査対象となった自治体総数や回答の詳しい内訳までは確認できませんでした。そのため、「全国の自治体の多くが下水道をやめる」といった捉え方は避ける必要があります。
八潮市についても、現時点では公共下水道の整備が続いています。一方で、八潮市の道路陥没事故が国の法改正の背景として明記されたことも事実です。
下水道をどこまで広げるかだけではなく、安全に、そして将来にわたって維持できる形をどう選ぶのか。 国が制度として示し始めたのは、そんな新しい汚水処理の考え方です。
今後、各自治体が実際にどの区域を見直し、費用負担や住民への説明をどのように整理していくのか。八潮市を含め、それぞれの地域で示される具体的な計画が重要になってきます。
主な確認資料・出典(2026年9月20日確認)
- 時事通信「105市町村『浄化槽転換』前向き 国の下水道拡大方針見直しで―人員不足で困難ケースも・時事通信調査」2026年9月20日7:01配信。
- 国土交通省「『下水道法等の一部を改正する法律案』を閣議決定」2026年3月27日。
- 国土交通省「下水道法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令等を閣議決定」2026年8月4日。
- 国土交通省「令和7年度末の汚水処理人口普及状況について」2026年8月24日公表。
- 八潮市「八潮市公共下水道のご案内」2026年8月5日更新/「新たに公共下水道を使用できる区域」2026年4月1日更新/「不動産物件調査の方へ」2026年5月21日更新。
<Hacchinさん>
「やしおん」運営代表。ずっと八潮の人。30年近くネットの世界にいます。現在本職は小さなゲーム会社の管理部長。BBQインストラクター資格。とある町会役員。
八潮市の他、生活エリアである近隣の情報など拾っています。











