八潮にも流れる「葛西用水」が世界へ “世界かんがい施設遺産”候補選定、その価値とは

江戸の発展を支えた“巨大インフラ”

名所江戸百景「四ツ木通用水引」歌川広重画(1857 年)

名所江戸百景「四ツ木通用水引」歌川広重画(1857 年)

葛西用水は、行田市の利根大堰から利根川の水を取り込み、春日部市、越谷市、草加市、八潮市、三郷市などを通り、東京都足立区方面へと至る大規模農業用水です。

その歴史は400年以上前にさかのぼります。

1590年、徳川家康は伊奈忠次を中心に、大規模な河川改修と農業用水整備を推進しました。いわゆる「利根川東遷」「荒川西遷」と呼ばれる国家的土木プロジェクトです。

当時の関東平野は洪水が頻発し、農業生産も不安定でした。

そこで、河川の流れを変えながら水害を抑え、同時に広大な農地へ安定的に水を送る仕組みづくりが進められました。

葛西用水は1590年代に亀有溜井を築造したことに始まり、その後段階的に水源を上流へ拡張。1660年には利根川に到達し、1719年には現在につながる安定した送水システムが完成したとされています。

当時の江戸は、世界でも有数の人口を抱える巨大都市でした。

18世紀には人口100万人を超えたともいわれ、その食を支える農地の多くが、葛西用水によって潤されていました。

19世紀には約14,000ヘクタールの農地をかんがいし、年間2万トン規模の収穫を支えたともされています。

つまり葛西用水は、単なる地域用水ではなく、“江戸という巨大都市を支えた食料供給インフラ”だったのです。

「溜井」が支えた高度な水利用

松伏溜井図(1901 年)

松伏溜井図(1901 年)

葛西用水の大きな特徴が、「溜井(ためい)」と呼ばれる独自の貯水システム。久喜・幸手市の「琵琶溜井」、越谷市・松伏町の「松伏溜井」、越谷市の「瓦曽根溜井」、東京都葛飾区の「亀有溜井」などが代表例として知られています。

これらは単なる池ではなく、水位を調整しながら効率的に水を循環利用するための高度な仕組みでした。

さらに葛西用水では、上流域からの排水を下流側で再利用する“反復利用”も行われていました。限られた水資源を最大限活用する「関東流」と呼ばれる技術体系は、現代の水循環型社会にも通じる考え方として注目されています。

“地域の風景”として今も生き続ける用水

八潮市 葛西用水自然観察広場

八潮市 葛西用水自然観察広場 公式サイトより

伊草地区での灯ろう流し

伊草地区での灯ろう流し

葛西用水が高く評価されている理由は、現在も地域に深く根付いていることです。

多くの歴史施設が“過去の遺産”として残る中、葛西用水は今も農業を支え、水辺空間として地域住民の暮らしの一部になっています。

用水沿いには遊歩道や桜並木が整備され、散策コースや地域イベントの場として活用される場所もあります。八潮市周辺でも、葛西用水は日常風景の一部として親しまれており、「昔からある当たり前の存在」と感じている人も多いかもしれません。

しかしその背景には、400年以上受け継がれてきた土木技術と、地域の暮らしを支え続けてきた歴史があります。

現在、葛西用水路土地改良区を中心に、世界かんがい施設遺産登録に向けた取り組みが進められています。認定の可否は、ICID本部に設置される審査委員会で審査され、認定施設は2026年10月、フランス・マルセイユで開催される第77回ICID国際執行理事会で発表される予定です。

普段何気なく見ている水路が、世界に誇る歴史的インフラとして評価されるかもしれない――。

八潮を流れる葛西用水は、地域の“当たり前の風景”であると同時に、日本の農業と都市発展を支えてきた貴重な歴史遺産でもあります。


<Hacchinさん>

hacchin「やしおん」運営代表。ずっと八潮の人。30年近くネットの世界にいます。長年ベンチャー企業でエンタメ業界や株式公開など、色々ともまれまして、現在本職は小さなゲーム会社の管理部長。BBQインストラクター資格。とある町会役員。

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