1万地点以上の調査で可視化された地質構造――防災・都市計画に活かす「3次元の地盤図」

(A)都市域の地質地盤図「埼玉県南東部」の位置図、(B)さいたま新都心周辺の地質立体図、(C)低地の下の軟弱層(沖積層)基底面の3次元分布形状、(D)台地の下の軟弱層(木下層下部)基底面の3次元分布形状
※都市域の地質地盤図「埼玉県南東部」より編集
埼玉県八潮市を含む県南東部の地下地質構造が、ついに“立体的に”可視化されました。国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は、都市域の地質地盤図シリーズとして「埼玉県南東部」版を公開。これにより、地震や液状化に対する備えを考えるうえで極めて重要な地下の軟弱層の分布が、これまでにない精度で明らかとなりました。
今回の調査では、1万地点を超えるボーリングデータを解析し、地下数十メートルまでの構造を3次元で描出。八潮市を含む中川低地では、特に平均N値が5以下、場合によっては3以下といった“非常に軟らかい”地盤が分布していることが判明しました。これは、最終氷期(約2万年前)に形成された深い谷を埋めるように堆積した泥層=沖積層によるもので、地震の揺れを増幅させたり、地盤沈下のリスクを高める要因ともなりえます。

A ボーリング地点における深度30 mまでの岩相構成、B ボーリング地点における深度30 mまでの平均N値
一方、一般的に“固い”とされる台地でも油断はできません。大宮台地の地下にも、14万年前の氷期に形成された谷を埋めるように分布する木下層下部という軟弱な地層が存在し、さいたま市浦和区付近では台地にもかかわらず平均N値が10前後という、荒川低地と変わらない軟らかさを示すことが明らかになりました。
この「都市域の地質地盤図」は、防災計画の基礎資料としてはもちろん、建築設計や都市インフラ整備の現場でも活用が期待されます。特に八潮市のように都心近接かつ人口増加が続く地域においては、災害に強いまちづくりを実現するための欠かせないツールとなるでしょう。
地図データは産総研のウェブサイトにて無料公開されており、3次元モデルの閲覧や地盤データのダウンロードも可能です(https://gbank.gsj.jp/urbangeol/)。地盤に関心を持ち、防災意識を高めることが、私たちの暮らしを守る第一歩になるかもしれません。