八潮市の新たなマイルストーン: 環境配慮型庁舎としてのZEB Ready認証獲得
1月4日から稼働を開始した、八潮市役所の新庁舎。
この建造物は、「ZEB Ready認証」を2021年8月25日に獲得しており、これは、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)による5段階評価の最高ランクであり、埼玉県では初の認証となります。
とはいっても、一般の方には「ZEB」「ZEB Ready」「BELS」とか、いまいち理解しきれないところもあるかと思いますので、ちょっと掘り下げてみました。
建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)とは
平成25年に国土交通省は「非住宅建築物の省エネルギー性能表示のための評価ガイドライン」を制定し、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)がスタートしました。
この制度は、全ての建築物のエネルギー消費性能を評価し表示することを目的としています。平成27年には、エネルギー消費性能の表示を促進する法律が施行され、BELSはさらに拡充されました。
これにより、性能の優れた建築物が市場で適切に評価され、選ばれる環境が整備されています。
今回、八潮市役所はこの「BELS」の5段階評価で最高ランクの星5つを取得しています。
ZEB(ゼブ)とは?
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギービル)とは非住宅に付与される認定。
ZEBは、高効率な設備システムの導入などにより室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギー化を実現したうえで、消費するエネルギーを全て太陽光発電で賄い、エネルギー消費量の収支を実質ゼロにすることを目標にしています。
ZEBは、BELSにて5つ星を取得した上で、使用した電力などを自ら太陽光発電等で創り出す、「省エネ」と「創エネ」を組み合わせた概念です。例えば、建物の中では人が活動しているため、エネルギー消費量を完全にゼロにすることはできませんが、省エネによって使うエネルギーをへらし、創エネによって使う分のエネルギーをつくることで、エネルギー消費量を正味(ネット)でゼロにすることができます。これがZEB。
ちなみに、似た言葉として「ZEH(ゼッチ:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」があります。ZEHとZEBは対象となる建築物が異なっており、ZEHがエネルギー対策を行った一般住宅を指すのに対し、ZEBはエネルギー対策を行ったビルや工場、学校などの建築物を指します。
ZEB、ZEB Ready、Nearly ZEB、ZEB Orientedの理解
ZEBは、前述の通り、建築物が年間で消費するエネルギー量と再生可能エネルギーによる発電量の収支をゼロにすることを目指しますが、建物の環境や条件に応じて、以下の4種類に分けられます。
- ZEB: 年間一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスの建築物。再生可能エネルギーを含め、50%以上削減が必要。
- ZEB Ready: ZEBを見据えた高断熱性と高効率設備を備え、再生可能エネルギーを除く50%以上のエネルギー削減を実現。
- Nearly ZEB: ZEB Readyを基に、75%以上100%未満のエネルギー削減を目指す。
- ZEB Oriented: さらなる省エネルギーへの措置を含む建築物で、用途に応じ40%以上または30%以上の削減を実現。
ZEBに複数の種類があるのは、環境に応じたZEBの取得難易度を調整するため。
具体的には、ZEBを複数の種類に分けることで、土地や屋根の形状で太陽光発電設備の設置が難しい物件や、晴天が少ない地域に所在する建物でも評価ができるようにしています。
また、各ZEBの種類ごとに、下記2つの指標が設けられています。
- 太陽光発電設備等から発電される再生可能エネルギーを見込めない場合
- 太陽光発電設備等から発電される再生可能エネルギーを全て見込んだ場合
このように2つの指標を設けることで、消費するエネルギー量を減らしつつ、太陽光発電設備を設置し、エネルギー収支をゼロに近付ける取り組みが進められています。
これらの分類により、様々な地域や建物の特性に対応したエネルギー自立のアプローチが可能になります。未評価技術の導入や今後の更新も含め、ZEBは持続可能な建築の未来を切り開いています。
新庁舎が取得した「ZEB Ready」について
今回新庁舎が認定を受けた「ZEB Ready」は、前述のように「再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギー消費量から 50%以上の一次エネルギー消費量削減に適合した建築物」となっています。
建物では様々なエネルギーが使われており、発電所などから送られてきた電気やガス、熱といったエネルギーを、空調、換気、照明、給湯、エレベーター、OA機器などの形で消費しています。建造物の構造により、これらのエネルギーの消費を抑えることによって、建物で使うエネルギーをできるだけ減らすことで、この「ZEB」に近づけようという概念の元、今回の新庁舎では、従来のエネルギー消費の50%を抑えることが可能な建造物として認定されたというわけです。
残念ながら今回の新庁舎については、建築費用の抑制等から、太陽光発電設備は見送られたようですが、それでも省エネ効率が50%というのは、正直驚くべき数値で、例えると、自宅を新築したら光熱費が半額になった!!。ってくらいの効果が期待できるということです。昨今の温暖化対策や生産性の向上などのSDGsにおいても大きな貢献となるのではないかと。
※その後、ご指摘いただきまして、太陽光パネルによる発電や、羽根板を斜めに並べて外光を遮断しながら通気ができるルーバーなどが採用されていることがわかりました。勉強不足で大変申し訳ありませんでした…。ご指摘いただきましてありがとうございました。
フロア照明をオールLED化したり、エアコンの配置、断熱効果の高い建材の使用、レイアウトによる人の導線の効率化等、様々な視点からアプローチすることで、こういった認定が得られたのではないかなと思います。
ちなみに、全国で「ZEB Ready」認定を受けているのは、滋賀県高島市役所庁舎や北海道網走郡美幌町役場新庁舎など、自治体を中心に多くの事例が生まれています。「Nearly ZEB」は福島県須賀川土木事務所庁舎や神奈川県開成町新庁舎など。
「じゃあいっそ太陽光載せて全部賄えばいいじゃない」と思いそうですが、いやいや、どれだけの費用かかかるか…。
今度市役所に伺ったら、そういった視点から、ちょっと建物やフロアを見てみると面白いかもしれませんよ。